最先端重要研究クラスタ

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先進原子力エネルギー研究グループ

(1)新型原子炉・加速器駆動未臨界炉研究グループ

1)新型原子炉(軽水炉,高速炉)の開発

(工学研究科)功刀資彰,河原全作

平成20年度の計画と成果
 先進原子力エネルギー源として,現行の原子炉よりさらに安全・安心な新型の軽水炉および高速炉の開発が期待されている。新型原子炉のエネルギー変換の高効率化と高度な安全性の実現のためには,原子炉内での冷却材流動の精緻な把握が必要であるが,その多くは複雑な空間形状下での気液二相流であり,基盤技術として混相流計測技術および混相流解析技術が極めて重要である。本研究では,高度な計測システムを有する気液二相流実験ループにより様々な気液二相流動様式における気液界面の時空間挙動を詳細に計測するとともに,その実験データベースを基に混相流解析手法の高精度化,高速化を行う。今年度は,気泡の3次元挙動を把握するために大口径矩形流路試験部を有する実験ループを設置するとともに,光プローブ計測システム・高分解可視化解析システム等を導入し,混相流計測技術の高度化を進めた。また,複雑な体系を有する新型原子炉の開発に対応できる混相流解析技術の高度化のために,混相流-構造連成数値解析手法の構築を進めるとともに,混相流解析手法の高速化手法の検討を行った。

2)加速器駆動未臨界炉の炉物理研究

(原子炉実験所)三澤 毅,宇根崎博信,中島 健

 安全性の高い革新的エネルギー源として期待される加速器駆動未臨界炉(ADS)の成立性を評価し,ADSの技術基盤を確立することを目的とし,エネルギー可変型FFAG加速器と臨界集合体実験装置(KUCA)を結合したADS実験を行っている。平成20年度は,エネルギー可変型FFAG加速器のビーム調整試験および臨界集合体実験装置(KUCA)へのビーム供給を実施し,加速器駆動未臨界炉実験を実施可能な状態とするとともに,KUCAに未臨界炉模擬体系を構築し,加速器駆動未臨界炉実験を実施した。この実験では,FFAG加速器からの陽子ビームをタングステンターゲットに衝突させて発生する高エネルギー中性子をKUCAに構築した未臨界炉模擬体系に入射させ,放射化法による高エネルギー中性子スペクトル測定,箔放射化法による反応率分布測定及びスペクトル測定,ビームトリップ・ビーム投入時および急激な負の反応度投入時の炉心応答測定,パルス中性子法および中性子源増倍法による未臨界度測定,炉雑音法による動特性パラメータ測定を実施した。

3)陽子加速器FFAGの開発

(原子炉実験所)森 義治,石 禎浩

 陽子加速器FFAGの開発研究においては,誘導加速方式・スパイラル磁極方式およびマルチコイル方式を採用した陽子FFAG加速器である入射用加速器I(イオンベータ)でのビームの取出しエネルギー可変機能の検証,FFAG主リングにおいてエネルギー100MeVまで加速したビームの主リングからビーム輸送系(MCBT系)への取出し調整,主リングから取出されたビームのビーム輸送系(MCBT系)通過・KUCAへの導入のための調整を行う必要がある。このうちMCBTビーム輸送系でのビーム輸送効率は,臨界集合体でのビーム実験の成否に直結するため特に重要である。本研究ではこのための電磁石電源等の整備を行うとともに,さらに,将来のビーム増強に向けて,負水素イオンビームによる荷電交換入射方式の開発研究を開始し,このためにビーム光学設計および必要なビーム真空システムの開発を行った。

4)加速器駆動未臨界炉の材料開発

(原子炉実験所)義家敏正,徐 虬

 加速器駆動未臨界炉の安全性を確保するためには,高エネルギー陽子照射に強い材料の開発が必要である。高エネルギー陽子による材料の弾き出し損傷以外に,水素とヘリウムを含む照射欠陥の形成による材料の劣化の影響も考慮しなければならない。本研究ではそのような劣化機構を実験的に調べることを目的としている。本年度は原子炉実験所に設置されているFFAG陽子加速器を用いて,材料の陽子照射ができる照射システムを開発した。

(2)核融合炉関連研究グループ

1)ヘリオトロンJによるプラズマ閉じ込め研究

(エネルギー理工学研究所)水内 亨

 ヘリオトロンJ装置における核融合炉心プラズマ統合解析研究の研究基盤整備として,核融合プラズマ計測技術の高度化(電子密度分布計測システムの開発,イオン温度・回転速度の高精度計測システム開発)を行うとともに,非軸対称プラズマの統合シミュレーションコード開発を実施した。計測技術の高度化の結果,電子密度に反映される位相精度の向上が可能となったのに加え,核融合炉設計で重要なプラズマ径電場計測の高精度化が図れる見通しである。非軸対称核融合炉心プラズマの統合シミュレーションコードの開発では,高性能ワークステーションを導入し,現在,新古典輸送解析,プラズマ流や圧力非等方性を考慮したMHD平衡解析などの解析モジュールの開発を行っており,ブートストラップ電流に関してはLHD実験との比較により,理論モデルの妥当性が検証をできる段階まできている。

1)トカマク統合シミュレーションコードの開発

(工学研究科)福山 淳

 トカマク統合シミュレーションコードの開発では,磁気核融合炉心プラズマの性能予測・運転最適化に向けて,各粒子種間のクーロン衝突効果を正確に取り入れて,それぞれの運動量分布関数の時間発展を記述する計算コードを開発し,イオンサイクロトロン波加熱や電子サイクロトロン波電流駆動の自己無撞着なシミュレーションを行うとともに,統合シミュレーショ計算サーバのメモリを増設し,より解像度の高いシミュレーションを可能にした。

2)先進トカマク炉の開発

(エネルギー科学研究科) 前川 孝

 中心ソレノイドを省いたコンパクトな先進トカマク炉を目指して,低アスペクトトーラス実験(LATE)装置においてマイクロ波による球状プラズマトーラス形成実験を推進した。さらに,非等方圧力モデルを用いてその磁気流体的平衡を解析した。

3)核融合炉システムの設計

(エネルギー理工学研究所)小西哲之

 計画:核融合炉システムの設計研究では,20年度にはゼロエミッションに向けた二酸化炭素排出を世界規模で実現するために有意な貢献を可能とするエネルギーシステム概念の構築,およびその概念を具体的設計研究に結びつけるための研究基盤整備を計画した。
 実施内容と達成度:上記計画を実施するためにシナリオグループの活動と連携し,以下の指針を得た。

  • 核融合発電にわが国では大きな市場と世界規模での二酸化炭素削減への規模は期待できない。
  • 核融合開発に今後数10年を要した場合,途上国を中心とする市場の拡大時期での導入機会が大きく減少するため,貢献度を上げるためには早期実用化が必要。
  • 世界レベルでも電力市場は水力,太陽光等再生可能電力,原子力との競合があり,核融合の市場拡大は必ずしも低炭素化に大きく貢献しない。
  • 燃料市場は電力の数倍の大きさがあり,かつ石油等化石資源への依存度が高いため,燃料市場で代替可能なエネルギー供給では世界規模で大きな二酸化炭素削減が期待される。

以上に基づき概念構築を行った結果,核融合エネルギーを高温液体金属ブランケットで熱に変換し,さらにバイオマスから水素や合成燃料を製造する核融合-バイオマスハイブリッド概念を提案した。これは現在可能なレベルのプラズマ性能で,電力でなく液体燃料を供給するシステムであり,世界的にも類例のない提案である。これにより,近未来に化石燃料の代替エネルギーとして二酸化炭素ゼロエミッションに向けた有意な貢献が可能であることを示した。またそのための基盤として,設計に必要な計算コード群として,中性子工学計算コード,熱流体コードを整備した。

 この成果は,20年度当初計画を満足するとともに,本GCOEの目指すゼロエミッションに向けたエネルギーシナリオの全体パッケージの中でも重要な寄与をなすものと期待される。

(3)先進原子力材料開発グループ

1)セラミックスの照射時熱拡散率評価に関する研究

(工学研究科)秋吉優史

 核融合炉や高温ガス炉などの将来的な原子炉などの開発を行う上で,過酷な照射環境下で用いることの出来る材料開発を行う必要がある。特に発電効率の向上や水素直接製造のために高温での運用が要求されており,セラミックスの利用が考えられている。高温で用いられる材料に対して熱拡散率は非常に重要な物性であるが,セラミックスは照射により熱拡散率が著しく低下することが知られている。これまでの研究で照射条件の違いにより照射後物性がどのように変化するかが徐々に明らかにされてきているが,照射時の熱拡散率の評価はこれまでほとんど行われておらず,材料開発指針が得られていない。
 このため,いくつかの仮定を基に照射後試料の熱拡散率温度依存性を測定することにより,照射時の熱拡散率を評価する手法を開発している。本研究では,30MeVの電子線加速器による照射を様々な温度で行い,照射後試料の熱拡散率測定を行う事により,照射時熱拡散率の照射温度による変化を調べる。試料は放射化しているため,測定は宇治地区放射実験室の管理区域内で行う。しかしながらこれまで試料調整環境や,測定のための消耗品が不足しており,十分に測定を行うことが出来なかった。
 平成20年度はまず自動研磨機などを導入して試料調整環境の整備を行い,セラミックス試料の効率的な高精度での加工を可能とした。これにより今後電子線照射に供する試料を準備した。また効率的に熱拡散率測定を行うことが出来る環境を整備し,当初の目的を達成した。

2)照射欠陥その場観察システムの改良

(工学研究科) 土田秀次

 近年,陽電子消滅法は材料中の欠陥解析のためのツールとして急速な進歩を遂げており,放射線環境下で用いる材料中の照射欠陥挙動を評価できると期待されている。従来の照射損傷に関する研究では,照射後試料の様々な物性評価により欠陥挙動解析を行ってきたが,放射線照射下での欠陥挙動に関する研究はほとんど行われていない。このため,宇治地区放射実験室のタンデトロン加速器を用いたイオンビーム照射時の欠陥導入状態のその場観察を試みている。しかしながら,陽電子寿命測定での時間分解能が十分ではなく,また測定に非常に時間を要するため,装置の改良が必要であった。
 平成20年度は既存の陽電子寿命測定装置の改良を行った。BaF2 シンチレーション検出器のシンチレーターをより大型の物とすることにより,従来よりも検出効率を向上させた。また照射チャンバーを改良し,透過型アバランシェフォトダイオードによる測定の際の機器のレイアウトを変更することにより,分解能の向上を試みた。これらにより照射時欠陥挙動をより高精度で評価可能となったと考えられ,当初の目的は達成できた。マシンタイムの関係等で改良後のシステムでの測定は完了していないが,今後測定を重ねることで照射環境での材料開発指針を得る予定である。

3)先進鉄鋼材料(ナノサイズ酸化物分散強化鋼)の開発

(エネルギー理工学研究所)木村晃彦

 本課題では,CO2ゼロエミッションエネルギーシナリオとして,原子力エネルギーの高効率安全利用を取り上げ,それを根底から支えるための原子力材料技術開発を行う。
 プラントの熱効率を上げるためには,構造材料の使用上限温度を上昇させることが不可欠である。本研究では,原子力構造材料の基幹的な材料として位置づけられている鉄鋼材料に着目し,その使用温度を高温度側に飛躍的に拡大させることが可能であると期待されている先進鉄鋼材料として,ナノサイズ酸化物分散強化鋼を提案し,その開発研究を実施する。
 平成20年度は,博士課程の学生が中心となり,先進原子力システムにおける材料要件を検討し,その要件を満足させるための革新的な材料を開発するための技術およびそれを支える学術基盤について議論した。その結果,高温強度特性はナノ酸化物粒子の種類やサイズ及び数密度に依存するため,ナノ粒子制御が開発のキーとなることを予測した。この結果に基づき,この研究における目標として,開発面からは高強度化発現材料プロセスの最適化,および学術面からはナノ粒子形成機構の解明を位置づけた。
 研究の目的や開発方針を検討するための研究サブグループ(韓国からの留学生2

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