最先端重要研究クラスタ

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バイオマスエネルギー研究グループ

(1)種々のバイオマス資源のバイオ燃料への特性化

1)種々のバイオマス資源の特性化とバイオ燃料へのポテンシャルの評価

(エネルギー科学研究科)坂 志朗

 バイオ燃料の生産には種々のバイオマス資源が利用可能であるが,その特性が得られるバイオ燃料に大きく影響する。そこで本研究では,種々のバイオマス資源の基礎的特性を調査し,それぞれのバイオマスにあったバイオ燃料への変換技術のポテンシャルを明らかにする。本年度は,種々のバイオマス資源のセルロース,ヘミセルロース,リグニン,抽出成分および無機成分などの化学組成について定量分析を行ない,その化学特性を明らかにした。

(2)バイオエタノール

1)加圧熱水・酢酸発酵・水素化分解法によるリグノセルロースからのエコエタノール生産

(エネルギー科学研究科)坂 志朗,河本晴雄,宮藤久士

 加圧熱水処理による糖化と酢酸発酵,水素化分解を組み合わせることにより,リグノセルロースを無触媒で加水分解し,得られた広範な糖類などを効果的にエタノールに変換することができる。その結果従来の硫酸加水分解・酵母発酵に比べ二酸化炭素削減効果の高い,酢酸発酵による新規なエタノール生産法の確立を目指している。ブナ木粉を用いた加圧熱水処理では,糖化収率は72重量%(ヘミセルロースとセルロースベース)を達成した。また,リグニンの選択的な低分子化が確認された。酢酸発酵では,Clostridium. thermoaceticumとC. thermocellumの混合系において,加圧熱水処理生成物から効率的な酢酸生産を行える可能性が示唆された。水素化分解法では,定量的に酢酸エチルをエタノールへと変換できる条件が見出された。これらの結果から,酵母による従来法に比べ,より効率的なバイオエタノール生産の可能性が示唆された。

2)ニッパヤシからのバイオエタノール生産プロセスの構築

(エネルギー科学研究科)坂 志朗

 ニッパヤシは,熱帯マングローブとともに自生し,その樹液はサトウキビの糖蜜に似た成分組成を有するため,バイオエタノール生産に好適である。肥沃な湿地帯に自生するため肥料施肥も限定的でエタノール生産バイオマスとして高いポテンシャルを有している。そこで,ニッパヤシの生態観察と樹液組成の分析,樹液のエタノール発酵性を調査し,バイオエタノール原料としての適性を検討した。その結果,ニッパ樹液はサトウキビに比べて糖の含有率が高く,無機成分は,ニッパ樹液でNa+,K+が多く,サトウキビではK+,Mg2+,Ca2+が多いことが明らかになった。またニッパ樹液のエタノール生産性は,サトウキビと同様高かった。現在,ニッパ樹液中に含まれる無機成分のエタノール発酵性に対する影響について検討を行っている。

3)タンパク質工学的手法による高効率バイオエタノール生産酵母の開発

(エネルギー理工学研究所)小瀧 努

 木質バイオマスからバイオエタノールなどを高効率に生産するためには,多くのプロセスにおける高効率化が必要であるが,本研究開発では,キシロース代謝酵素のタンパク質工学的手法を用いた補酵素要求性の改変をまず行い,その後,その改変酵素を酵母に形質導入することによりバイオマス由来の主要五炭糖であるキシロースからの高効率エタノール生産を目指した。野生型酵母(Saccharomyces cerevisiae)はキシロース等の五炭糖を代謝できないが,五炭糖代謝関連酵素を形質導入するとキシロースをエタノールに変換することが出来るようになる。しかしながら,実用的な効率でのエタノール生産は達成されていない。この原因の一つとして,キシロース還元酵素(XR)とキシリトール脱水素酵素(XDH)の補酵素依存性の違いによる細胞内酸化還元環境のアンバランスが指摘されてきた。そこでこの問題を解決するために,まず,XDHおよびXRの補酵素要求性を変換した酵素をタンパク質工学的手法により作成した。その後,機能改変した酵素を酵母内で発現させ両酵素の発現効率およびキシロース-エタノール変換効率の評価を行ったところ,補酵素要求性の変換によりエタノール変換効率が改善されることを見出した。

(3)バイオディーゼル

1)超臨界アルコールによる油脂からのバイオディーゼル燃料とその燃料特性

1)超臨界アルコールによる油脂からのバイオディーゼル燃料とその燃料特性

 従来のバイオディーゼル燃料はメタノールと油脂類からアルカリ触媒などを用いてエステル交換反応により製造される。しかしアルカリ石鹸が生成するため,バイオディーゼルの分離精製が容易でない。そこで,無触媒条件でバイオディーゼル燃料が製造できる,超臨界アルコール法が検討され,ほぼその製造方法が確立された。本研究ではこの超臨界アルコール法で製造されるバイオディーゼル燃料について,その燃料特性を精査し,より良いバイオ燃料を獲得する超臨界処理条件の検討を試みている。その結果,超臨界メタノール法では300℃以下の高圧条件(たとえば20MPa)で良好なバイオディーゼル燃料が得られることを見出した。これは,超臨界処理によりhydroperoxides が分解され過酸化物価が低減する一方で,天然の抗酸化剤はわずかしか低減しないためであることが明らかになった。またリグニン由来の低分子物質も抗酸化剤として効果的であることが明らかになった。

2)超臨界カルボン酸エステル/中性エステルによる油脂からのバイオディーゼルの創製

(エネルギー科学研究科)坂 志朗

 廃油を含む油脂資源は現在,アルカリ触媒法によりバイオディーゼル燃料に変換され,ヨーロッパを中心に世界各地で自動車燃料として利用されている。しかし,副産するグリセリンの世界市場は年間70-80万トンと少ないにもかかわらず,バイオディーゼルの増産により,2006年には年間150万トンの生産量となり過剰な状況にある。このような状況のもと,本研究ではメタノールに替わる溶媒としてカルボン酸エステルや炭酸ジメチルなどの中性エステルを用いた,グリセリンを副生しない新規な超臨界バイオディーゼルの製造法を開拓する。カルボン酸エステルの場合,トリグリセリドは脂肪酸メチルエステルとトリアシンに無触媒で変換され,それらすべてがバイオディーゼル(収率が最大125%)として利用でき,酸化安定性に富む燃料となることを明らかにした。カルボン酸ジメチルの場合,グリセリンはグリセロールカーボネートなどの付加価値の高いものに変換されることを見出した。

3)種々のバイオディーゼル燃料の着火・燃焼特性

(エネルギー科学研究科)塩路昌宏

 ディーゼル機関における燃焼制御には,燃料噴霧の自着火燃焼特性の把握が必要である.本研究では,将来の代替燃料として期待されるバイオディーゼル燃料BDFを対象とし,定容燃焼実験により自着火燃焼特性を調べた.まず,燃料噴霧の発達状況を観察し,軽油とBDF噴霧では到達距離に明確な差はないものの,密度,蒸発特性などの物理特性を反映して,BDFでは噴霧先端部における混合気形成が遅れることを明らかにした.さらに,種々の雰囲気温度における着火過程を調べて軽油と比較した結果より,800 K以下の温度域で両者に大きな差が認められ,廃食用油から製造した直後のFAMEでは軽油より着火遅れは長くなること,低温流動性を向上するためにイソプロピルアルコールを少量添加したものは低温での着火性が向上すること,経年酸化して酸価が製造時から2倍に増加したものは軽油とほぼ等しい着火特性となること,などBDFの性状が着火過程に及ぼす影響を示し,ディーゼル機関に使用した際の燃焼制御に有用な知見を得た。

(1)液化バイオ燃料と有用バイオ材料への変換

1)超臨界流体法による液体バイオ燃料と有用バイオ材料への変換

(エネルギー科学研究科)坂 志朗

 超臨界(または亜臨界)アルコールを用いた木質バイオマスの液化による液体バイオ燃料の創製を検討している。超臨界アルコールを用いた木質バイオマスの液化には,ⅰ)アルコールそのものが液体燃料であるため,液化物がアルコールと共にそのまま液体燃料として利用できる,ⅱ)メタノール,エタノールの他,1-ブタノール,1-オクタノールなど,様々なアルコールがバイオマスから合成できるため,これらのバイオアルコールに木質バイオマスを可溶化することで,100%バイオマス起源の液体燃料の創製が可能である,といった特徴がある。本研究では,アルコールのみならず,フェノール系の溶媒を用いて木質バイオマスを液化し,それからバイオ燃料や有用なバイオ材料の創製を試みる。本年度はフェノールによる木質バイオマスの液化条件について検討し,その最適条件を見出しつつある。

2)熱分解によるバイオ燃料と有用バイオ材料

(エネルギー科学研究科)河本晴雄,坂 志朗

 本課題では,熱分解制御技術による,バイオマスからの高効率的な液体燃料あるいは有用材料(ケミカルス)生産を目的に,木質バイオマスの熱分解機構解明を分子レベルで進めており,下記の成果が得られた。木質バイオマスのガス化は2段階プロセスであり,まず,木質バイオマスの熱分解により揮発性生成物と炭に変換された後に,これらが二次分解する。リグニンとヘミセルロースの化学構造が異なる針葉樹材と広葉樹材において,これらの反応挙動が異なることが予想された。そこで,針葉樹材としてスギ,広葉樹材としてブナを用いて詳細に検討した結果,一次炭化物のガス化に対する反応性がブナにおいて著しく大きいこと,脱塩処理によりスギのガス化は大きく促進されるがブナではその影響は小さいこと,などが明らかになった。また,セルロースの熱分解機構と関連するものとして,比較的低温度域(200~240℃)において,セルロースの還元性末端基が高い反応性を持ち,セルロースの着色を進めると共に,解重合(グリコシド結合の開裂)を促進することが明らかになった。さらに,リグニンについては,2量体モデル化合物を用いることで,木材中のリグニンの熱分解においてラジカル連鎖反応が重要な役割を果たしていること,多糖成分であるセルロース,グルコマンナンとキシランがリグニンラジカル連鎖反応性に対して異なる影響を及ぼすことなどが明らかになった。

3)イオン液体によるバイオ燃料と有用バイオ材料

(エネルギー科学研究科)宮藤久士,坂 志朗

 バイオ燃料や有用バイオ材料の創製を目指し,木質バイオマスのイオン液体処理について検討を行った結果,1-エチル-3-メチルイミダゾリウムクロリドを用いた場合,100℃程度の処理温度で木質バイオマスは液化された。また,木質バイオマスの構成成分であるセルロース,ヘミセルロース,リグニンはいずれも液化されうることが明らかとなった。また,これらの木材成分はイオン液体中で低分子化を受け,セルロースやヘミセルロースは単糖にまで変換されうることも判明した。さらに反応雰囲気の影響に関する検討から,窒素などの不活性雰囲気下よりも酸素を用いた活性雰囲気下で,液化反応がより促進されることが分かった。イオン液体は,木質バイオマスに対して液化および低分子化反応をともなう化学変換溶媒として有効であると考えられる。

4)アブラヤシの特性化とその有効利用

(エネルギー科学研究科)坂 志朗,河本晴雄

 パーム油の採取を目的に,アブラヤシの植樹が東南アジアを中心に急速に広がってきており,これに伴い,大量の副産物が排出され,これらの有効利用が望まれている。例えば,アブラヤシは25-30年で植え替えられるため,その際に多量の幹が産出し,また生鮮果房の収穫の過程で茎葉が取り除かれ,パーム油やパーム核油の抽出時に中果皮,果実殻,パーム核粕,空果房が産出する。これらの有効利用を進める上で,まず,構成成分の詳細を理解することが重要である。その観点から,各部位における無機成分および有機成分(セルロース,ヘミセルロース,リグニンおよび抽出成分)について詳細に検討し,それらの化学特性を明らかにした。さらに,超臨界水処理により得られる水溶性およびメタノール可溶性生成物,不溶残渣について,それらの生成挙動,化学組成などを明らかにし,木材の結果と比較・検討することで,アブラヤシの超臨界水中での分解挙動の特徴づけを行った。

(5)バイオマス利用の制度設計

1)自律分散エネルギー需給システムとしてのバイオマス利用のモデル化と制度設計

(エネルギー科学研究科)手塚哲央

 本研究では,地域におけるバイオマスの利用システムを調査し,その望ましい利用形態を実現するための制度設計を目的とする。具体的には,まず,特定の地域におけるエネルギー需給およびバイオマス利用可能性に関するミクロな情報と,技術系研究者との連携により得られる将来に利用可能な技術情報とに基づき,京都市におけるエネルギー需給およびバイオマス利用に関する数理モデルを作成する。その際,エネルギー需給・バイオマス利用に関わるミクロとマクロの視点を考慮した自律分散型エネルギー需給システムとしてモデルを構築することが特徴となる。 そして,別途独自に開発を進めている,ロバスト制度設計手法を適用して,バイオマス利用のための望ましい制度の基本設計方針(補助金,環境税,インフラ整備,技術導入促進等)を提案する。平成20年度は,バイオマス需給モデル分析の全体像を検討すると共に,具体的なモデル構築のためのバイオマス利用システムの調査を京都市を対象として行った。

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