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バイオマスエネルギー研究グループ

Fig. 4-4. Topics in the biomass energy research group.

 再生産可能で莫大な資源量を誇るバイオマス資源の効率的な利用システム開発は、「CO2ゼロエミッションエネルギーシステムの構築」に向けた重要な研究分野の一つである。図4-4に示すように、本研究グループでは、廃バイオマスや種々のバイオマス資源からの、バイオエタノール、バイオディーゼルなどの高品位液体燃料、バイオメタンなどの気体燃料、さらにはバイオプラスチックスなどのバイオ材料への効率的な変換に着目し、京大独自の超臨界流体技術を中心とした研究開発を進めている。バイオマスエネルギーの導入を図る上で、バイオ燃料の製造技術のみならず、多角的に利用システムを考えることが重要である。このような観点から、当グループでは、得られる燃料のエンジン特性などのアプリケーションサイドからの研究、社会に導入する際のバイオマス利用システム設計などの社会科学の視点からの研究を同時に進めることで、製造、利用、社会システムに至る幅広い視点からの研究を行っている。以下に、これらの研究状況について簡単に紹介する。

図4-4 バイオマスエネルギー研究グループでの研究内容

(1)種々のバイオマス資源のバイオ燃料への特性化

1)種々のバイオマス資源の特性化とバイオ燃料へのポテンシャルの評価

(エネルギー科学研究科)坂 志朗

平成21年度の計画と成果

バイオ燃料の生産には種々のバイオマス資源が利用可能であるが、その特性が得られるバイオ燃料に大きく影響する。そこで本研究では、種々のバイオマス資源の基礎的特性を調査し、それぞれのバイオマスにあったバイオ燃料への変換技術のポテンシャルを明らかにする。本年度は、昨年に引き続き、種々のバイオマス資源のセルロース、ヘミセルロース、リグニン、抽出成分および無機成分などの化学組成について定量分析を行ない、その化学特性を明らかにした。また、それらの定量分析が種々のバイオマスに対応可能となるスタンダードな定量分析法を提案した。

(2)バイオエタノール

1)加圧熱水・酢酸発酵・水素化分解法によるリグノセルロースからのエコエタノール生産

(エネルギー科学研究科)坂 志朗,河本晴雄,宮藤久士

平成21年度の計画と成果

 加圧熱水処理による糖化と酢酸発酵、水素化分解を組み合わせることにより、リグノセルロースを無触媒で加水分解し、得られた広範な糖類などを効果的にエタノールに変換することができる。その結果、従来の硫酸加水分解・酵母発酵に比べ二酸化炭素削減効果の高い、酢酸発酵による新規なエタノール生産法の確立を目指している。酢酸発酵において、Clostridium thermoaceticum とC. thermocellumの混合系を用いることにより、単糖のみならずオリゴ糖、糖類の過分解物、リグニン由来物、有機酸類等が基質と利用できることが判明した。このことにより、ブナ(広葉樹)とスギ(針葉樹)の加圧熱水処理から、それぞれ木材ベースで82および65重量%が基質として回収できた。またリグニン由来の低分子化合物の回収プロセスも明らかになりつつある。さらに酢酸発酵では、ブナ加圧熱水処理液を基質として用いた場合でも、効率的な酢酸生成を行えることが明らかとなった。水素化分解法では、余剰水素のリサイクルによる酢酸エチルのエタノールへの変換方法を提案した。これらの結果から、酵母による従来法に比べ、より効率的なバイオエタノール生産の可能性が示唆された。

2)ニッパヤシからのバイオエタノール生産プロセスの構築

(エネルギー科学研究科)坂 志朗

平成21年度の計画と成果

 加圧熱水処理による糖化と酢酸発酵、水素化分解を組み合わせることにより、リグノセルロースを無触媒で加水分解し、得られた広範な糖類などを効果的にエタノールに変換することができる。その結果、従来の硫酸加水分解・酵母発酵に比べ二酸化炭素削減効果の高い、酢酸発酵による新規なエタノール生産法の確立を目指している。酢酸発酵において、Clostridium thermoaceticum とC. thermocellumの混合系を用いることにより、単糖のみならずオリゴ糖、糖類の過分解物、リグニン由来物、有機酸類等が基質と利用できることが判明した。このことにより、ブナ(広葉樹)とスギ(針葉樹)の加圧熱水処理から、それぞれ木材ベースで82および65重量%が基質として回収できた。またリグニン由来の低分子化合物の回収プロセスも明らかになりつつある。さらに酢酸発酵では、ブナ加圧熱水処理液を基質として用いた場合でも、効率的な酢酸生成を行えることが明らかとなった。水素化分解法では、余剰水素のリサイクルによる酢酸エチルのエタノールへの変換方法を提案した。これらの結果から、酵母による従来法に比べ、より効率的なバイオエタノール生産の可能性が示唆された。

2)ニッパヤシからのバイオエタノール生産プロセスの構築

(エネルギー科学研究科)坂 志朗

平成21年度の計画と成果

 ニッパヤシは、熱帯マングローブとともに自生し、その樹液はサトウキビの糖蜜に似た成分組成を有するため、バイオエタノール生産に好適である。肥沃な湿地帯に自生するため肥料施肥も限定的でエタノール生産バイオマスとして高いポテンシャルを有している。そこで、ニッパヤシの生態観察と樹液組成の分析、樹液のエタノール発酵性を調査し、バイオエタノール原料としての適性を検討した。その結果、ニッパ樹液はサトウキビに比べて糖の含有率が高く、無機成分は、ニッパ樹液でNa+, K+が多く、サトウキビではK+, Mg2+, Ca2+が多いことが明らかになった。またニッパ樹液のエタノール生産性は、サトウキビと同様高かった。現在、ニッパ樹液中に含まれる無機成分のエタノール発酵性に対する影響について検討を行っている。

3)タンパク質工学的手法による高効率バイオエタノール生産酵母の開発

(エネルギー理工学研究所)小瀧 努

平成21年度の計画と成果

 木質バイオマスからバイオエタノールなどを高効率に生産するためには、多くのプロセスにおける高効率化が必要であるが、本研究開発では、キシロース代謝酵素のタンパク質工学的手法を用いた補酵素要求性の改変をまず行い、その後、その改変酵素を酵母に形質導入することによりバイオマス由来の主要五炭糖であるキシロースからの高効率エタノール生産を目指している。キシロース代謝において、キーとなる酵素の一つであるキシリトール脱水素酵素(XDH)の補酵素要求性を変換することにより、木質バイオマスからのエタノール生産能を上昇させることにすでに成功している。そこで、もう一つの重要酵素であるキシロース還元酵素(XR)について、タンパク質工学的手法の中でも広く用いられている方法である部位特異的変異法を用いて、補酵素要求性を変換した酵素の作成を試みた。その結果、野生型のXRでは、補酵素としてNADHおよびNADPHの両者を用いることが出来るのに対して、NADPHのみに完全に依存した変異XRの作成に成功した。すでに作成しエタノール発酵能の高率化に有用であることが明らかとなっているNADP+に完全に依存したXDHと組み合わせて、酵母(Saccharomyces cerevisiae)に遺伝子組換により発現させることにより、更なるエタノール生産の高効率化が期待できる。

(3)バイオディーゼル

1)超臨界アルコールによる油脂からのバイオディーゼル燃料とその燃料特性

(エネルギー科学研究科)坂 志朗

平成21年度の計画と成果

従来のバイオディーゼル燃料はメタノールと油脂類からアルカリ触媒などを用いてエステル交換反応により製造される。しかしアルカリ石鹸が生成するため、バイオディーゼルの分離精製が容易でない。そこで、無触媒条件でバイオディーゼル燃料が製造できる超臨界アルコール法が検討され、ほぼその製造方法が確立された。本研究ではこの超臨界アルコール法で製造されるバイオディーゼル燃料について、その燃料特性を精査し、より良いバイオ燃料を獲得する超臨界処理条件の検討を試みている。その結果、超臨界メタノール法では300℃以下の高圧条件(たとえば20MPa)で良好なバイオディーゼル燃料が得られることを見出した。これは、超臨界処理によりhydroperoxidesが分解され過酸化物価が低減する一方で、天然の抗酸化剤はわずかしか低減しないためであることが明らかになった。また、クラーソンリグニンを微量超臨界メタノール反応系に添加することでリグニンも分解され、リグニン由来の低分子物質も抗酸化剤となり得ることが明らかになった。そこでB)バイオエタノールプロジェクトでの加圧熱水処理で得られるリグニン由来物質を同反応系に添加した結果、同様の効果が得られることが明らかとなった。

2)超臨界カルボン酸エステル/中性エステルによる油脂からのバイオディーゼルの創製

(エネルギー科学研究科)坂 志朗

平成21年度の計画と成果

 廃油を含む油脂資源は現在、アルカリ触媒法によりバイオディーゼル燃料に変換され、ヨーロッパを中心に世界各地で自動車燃料として利用されている。しかし、副産するグリセリンの世界市場は年間70-80万トンと少ないにもかかわらず、バイオディーゼルの増産により、2006年には年間150万トンの生産量となり過剰な状況にある。このような状況のもと、本研究ではメタノールに替わる溶媒としてカルボン酸エステルや炭酸ジメチルなどの中性エステルを用いた、グリセリンを副生しない新規な超臨界バイオディーゼルの製造法を開拓する。カルボン酸エステルのひとつ酢酸メチルエステルの場合、トリグリセリドは脂肪酸メチルエステルとトリアセチンに無触媒で変換され、それらすべてがバイオディーゼル(収率が最大125%)として利用でき、酸化安定性に富む燃料となることを明らかにした。さらに本年度は、酢酸メチル以外の種々のカルボン酸アルキルエステルに対し、詳細な検討を行い、カルボン酸エステルによるバイオディーゼル製造の体系的研究を推進する。炭酸ジメチルの場合、グリセリンはグリセロールカーボネートなどの付加価値の高いものに変換されることを見出した。また、実用化に向けた温和な反応プロセスを確立するため、超臨界炭酸ジメチルによる二段階プロセスを提案した。

3)種々のバイオディーゼル燃料の着火・燃焼特性

(エネルギー科学研究科)塩路昌宏

平成21年度の計画と成果

 ディーゼル燃料としてカーボンニュートラルなBDFの利用が期待されており、その燃焼制御には燃料噴霧の自着火燃焼特性の把握が必要である。本研究では、4種の植物油(Jatropha、Coconut、Soybean、Palm)から製造した脂肪酸メチルエステルFAMEを対象とし、定容燃焼装置による実験により噴霧発達、着火遅れおよび熱発生率経過を調べて軽油噴霧と比較した。その結果、10%蒸留温度および動粘度が最も小さいCoconut噴霧が最も高濃度領域が短く、微粒化、空気との混合、蒸発が促進して、セタン指数が低いにも関わらず広い温度範囲にわたって着火遅れは最も小さい値となり、その他のFAMEではPalmの着火遅れが短く、JatrophaとSoybeanはほぼ同じ値となることが示された。さらに、800 K以上では、いずれの燃料も予混合的燃焼の後に拡散的燃焼が続く典型的なディーゼル燃焼の形態となるのに対し、それ以下の温度では着火遅れの大きい燃料ほど予混合的燃焼が支配的となり、とくに軽油ではほぼ予混合的に燃焼が完結することなど、ディーゼルエンジンを運転する際に有用な知見を得た。

(2)液化バイオ燃料と有用バイオ材料への変換

1)超臨界流体法による液体バイオ燃料と有用バイオ材料への変換

(エネルギー科学研究科)坂 志朗

平成21年度の計画と成果

 超臨界(または亜臨界)アルコールを用いた木質バイオマスの液化による液体バイオ燃料の創製を検討している。超臨界アルコールを用いた木質バイオマスの液化には、i)アルコールそのものが液体燃料であるため、液化物がアルコールと共にそのまま液体燃料として利用できる、ii)メタノール、エタノールの他、1-ブタノール、1-オクタノールなど、様々なアルコールがバイオマスから合成できるため、これらのバイオアルコールに木質バイオマスを可溶化することで、100%バイオマス起源の液体燃料の創製が可能である、といった特徴がある。本研究では、アルコールのみならず、フェノール系の溶媒を用いて木質バイオマスを液化し、それからバイオ燃料や有用なバイオ材料の創製を試みている。本年度はフェノールによる木質バイオマスの液化条件について検討し、その最適条件を見出しつつある。

2)熱分解によるバイオ燃料と有用バイオ材料

(エネルギー科学研究科)河本晴雄,坂 志朗

平成21年度の計画と成果

 本課題では、熱分解制御技術による、バイオマスからの高効率的な液体燃料あるいは有用材料(ケミカルス)生産を目的に、木質バイオマスの熱分解機構解明を分子レベルで進めており、本年度は下記の成果が得られた。木質バイオマスのガス化と関連する成果として、それぞれグアイアシル核(G-核)、G-核+シリンギル核(S-核)と異なる芳香核構造を持つ針葉樹および広葉樹材中のリグニンの熱分解および二次分解挙動の相違を、木材、単離リグニンおよびモデル化合物を用いて明らかにした。また、比較的低温度域(<280℃)でのセルロースの熱分解において、還元性末端基からの分解が着色、熱重量減少などを引き起こす重要な反応であることが実験的に示された。さらに、アルコール類を共存させた系での加熱処理では、アルコールと還元性末端基がグリコシド結合を形成することで、これらの熱分解反応が著しく抑制されることも明らかになった。

3)イオン液体によるバイオ燃料と有用バイオ材料

(エネルギー科学研究科)宮藤久士,坂 志朗

平成21年度の計画と成果

 バイオ燃料や有用バイオ材料の創製を目指し、木質バイオマスのイオン液体処理について検討を行った結果、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムクロリドまたは1-エチル-3-メチルイミダゾリウムアセテートを用いた場合、100℃程度の処理温度で木質バイオマスは液化された。また、木質バイオマスの構成成分であるセルロース、ヘミセルロース、リグニンはいずれも液化されうることが明らかとなった。また、これらの木材成分はイオン液体中で低分子化を受けることも判明した。さらに、液化反応後に水を加えることでイオン液体に可溶化した木材成分を沈殿として回収し、得られた沈殿に対しセルラーゼを用いた酵素加水分解処理を行ったところ、無処理木材と比較してグルコース生成量が増加することが明らかとなった。

4)アブラヤシの特性化とその有効利用

(エネルギー科学研究科)坂 志朗,河本晴雄

平成21年度の計画と成果

 パーム油の採取を目的に、アブラヤシの植樹が東南アジアを中心に急速に広がってきており、これに伴い、大量の副産物が排出され、これらの有効利用が望まれている。例えば、アブラヤシは25-30年で植え替えられるため、その際に多量の幹が産出し、また生鮮果房の収穫の過程で茎葉が取り除かれ、パーム油やパーム核油の抽出時に中果皮、果実殻、パーム核粕、空果房が産出する。これらの有効利用を進める上で、まず、構成成分の詳細を理解することが重要である。その観点から、各部位における無機成分および有機成分(セルロース、ヘミセルロース、リグニンおよび抽出成分)について詳細に検討し、それらの化学特性を明らかにした。さらに、超臨界水処理により得られる水溶性およびメタノール可溶性生成物、不溶残渣について、それらの生成挙動、化学組成などを明らかにし、木材の結果と比較・検討することで、アブラヤシの超臨界水中での分解挙動の特徴づけを行った。その結果、化学組成の観点からは針葉樹よりも広葉樹に類似の特性を示すものの、超臨界水処理での分解は広葉樹に比較により過度に進行していることが明らかとなった。

(5)バイオマス利用の制度設計

5)自律分散エネルギー需給システムとしてのバイオマス利用のモデル化と制度設計

(エネルギー科学研究科)手塚哲央

平成21年度の計画と成果

  • 京都府における間伐材(間引きによる3齢級~7齢級の木材)の利用について、林道の設置、伐採、搬出、輸送のための費用構造、および製材業者による間伐材の購入希望価格をアンケート調査した。そして、ボイラー燃料を代替することを前提とした場合の間伐材利用の経済収支を分析、間伐材の利用を促進するための必要税額を推定した。
  • 廃食用油からのバイオディーゼル製造の費用構造を調査し、その経済収支を推定し、他の廃油との混合利用への熱分解法の適用可能性を分析した。
  • 将来技術開発の不確実性は、将来エネルギー需給システムの評価に不可欠な重要な役割を担う。本研究では、多様な技術開発間の因果関係と各技術の開発の可否の不確実性を表現できる離散事象モデルを提案し、従来の最適化モデルとの結合による将来技術評価の可能性を示した。このモデルを解析することにより、将来のゼロエミッションシナリオ実現に不可欠な技術の組合せを特定することも可能となる。

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